出せるだけ出してください
こうして公的医療制度の美容目的での利用が横行したことで、医療費増大が問題視されている。
この状況に立ち上がったのが、大手企業の健康保険組合で作る「健康保険組合連合会(以下、健保連)」だ。健保連は実態把握のため、2014年10月から2016年9月の2年間の診療報酬明細書を集計した。
「美容目的が疑われる『皮膚乾燥症』でのヒルドイド及び類似後発品の処方額を基に、全国の薬剤費を推計すると、年間93億円に上ることが判明しました」(健保連・広報)
この結果を受けて、健保連は「保湿剤の処方そのものを保険適用外とすべき」だと提言。その後、開かれた首相補佐官の衛藤晟一参議院議員が会長を務める「製薬産業政策に関する勉強会」でもヒルドイドについての意見交換が行われるなど、保険適用から外す動きは加速度を増している。これが現実となれば、本当にヒルドイドを必要としている患者も全額自己負担となる。
「うちの子は生まれてすぐに乳児アトピーと診断されて、1年ほどはステロイドを塗っていました。徐々に改善してきたので、ヒルドイドに切り替えてもらったのですが、まだまだ油断はできず、毎日朝とお風呂上がりにたっぷり塗るようにしています。もしこれが全額負担となれば、毎月重い医療費がわが家の家計にのしかかってきます」(40才・主婦)
ひどい乾燥肌で苦しむ子供たちや、がん治療の副作用である重度の乾燥肌の患者が、「高額すぎて手に入れられない」という最悪の事態も起こりえる。この状況を生み出しているのは、モラルの低いモンスターペイシェントと、そんな患者の言いなりになっている医師たちである。
「患者さんの中には、『肌にいいと聞いたので、ヒルドイドを出せるだけ出してください』と要求する人もいます。医師側も断れずにたくさん出してしまうケースもあります」(前出・吉木先生)