公的年金の受給開始年齢を引き上げる議論が活発化している。10月には高齢化社会に対応した社会保障制度を検討する内閣府の有識者会議が「年金受給の繰り下げを70歳以降も可能とするなどの検討を行なってはどうか」と報告書で提言。政府はこれをもとに「高齢社会対策大綱」の改定を進めている。
現在、公的年金の受給開始年齢は原則65歳だが、60~70歳の範囲で選択することが可能。早く受け取り始めると受給額は最大3割ほど減る一方、70歳まで遅らせると最大4割ほど増える。これを75歳まで遅らせることができるようにしようという議論だ。ファイナンシャルプランナーの藤川太氏(家計の見直し相談センター)が解説する。
「高齢化の進展に伴い、社会保障給付費(年金・医療・介護)が大きく伸びる一方で社会保険料収入は横ばいと、支出が収入を上回る状況が年々拡大しており、その差額は税金や多額の借金によって賄われています。ただでさえ年金財政が厳しい状況にある中、年金額をカットするのは財産権の侵害につながるため、易々と手を出せない。物価や賃金の水準に応じて年金額を調整する『マクロ経済スライド』が2004年に導入されましたが、デフレ経済が続いたために、2015年に特例部分が削られた以外は、事実上発動されてきませんでした。
このように年金額を減らすことはハードルが高いため、政府は受給開始年齢を遅らせることでどうにか年金財政のバランスをとろうとするのではないでしょうか。今回は75歳まで遅らせることを選択することを可能にするかどうかの議論です。受給開始を遅らせるほど、年金額が増えることになるので、これだけでは年金財政は楽にはなりません。
それを考えると、次にやってくるのは年金財政を改善する本命の策として、現在の原則の支給開始年齢である65歳を70歳に5年繰り下げる議論が今後高まってくるのではないかと見ています」