子育ては母親がするものだ――そのような考え方が日本では依然根強い。そうした考えが本来はフルタイムで働くことができるはずの女性を“専業主婦”という形で家庭に押し込め、ひいては家計の圧迫にもつながるという不幸な結果を招く。最新刊『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス刊)でそのおかしさを突いた作家・橘玲氏は、専業主婦を取り巻く環境の残酷さについて、次のように指摘する。
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日本では「良妻賢母」の社会的圧力が強いといわれます。ただ実際には、子どものいない家庭で、「うちの奥さん、全然家事してくれないんだよ」と夫がこぼしても誰も気にしないでしょう。
ところが、子どものいる家庭だとまわりの態度は一変します。「うちの奥さん、全然子育てしないんだよ」といえば、周囲はネグレクト(育児放棄)ではないかと深刻に受け止め、母親に説教する人もいるかもしれません。日本の女性の人生を大きく変えるのは「結婚」ではなく、「出産」なんです。妻の役割を放棄することはできても、母親の役割を放棄することは絶対に許されない。
いまの日本では、「専業主婦」とは家事をする女性ではなく、子育てを専業にする女性のことです。何人も子どもがいた時代ならいざ知らず、少子化によってどこも子どもは1人か2人でしょう。そうなると、専業主婦にとって子育ては「絶対に失敗できないプロジェクト」になります。共働きの親も子育てのプレッシャーを感じているでしょうが、専業主婦は子育てしかしていないのですから、それがアイデンティティのすべてになっているのです。