誰もが一度や二度は空想するのが、「趣味が仕事になったら……」という夢。「好きなことを仕事にすべき」「趣味は趣味、仕事は仕事に分けるべき」──正解はなかなか出しにくい問題だが、東武鉄道で働く坂巻健一郎さん(58)は、仕事で鉄道に携わりつつ、自宅では模型鉄道作りに精を出す“模型鉄”だ。坂巻さんが鉄道趣味に目覚めたのはいつだったのか?
「もともと実家が東武線の線路沿いにありまして、電車の音を聞きながら育ちました。子供の頃はずっと鉄道を見ていて、チラシの裏に電車の絵を書いたりしていました。高校は鉄道系の機械科に通っていて、本当は運転手になりたかったんですが、たまたまその時期は運転士の募集がなかったんです。
『東武鉄道に入るにはどうすればよいのか?』という話を学校ですると、『工場の仕事もあるよ』と言われました。通学の沿線に当時、西新井工場という東武の工場があって、『ここに行けたらいいな』と思っていたので、試験を受けて入社しました」(坂巻さん。以下同)
入社後は、18歳から42歳まで杉戸工場、55歳まで南栗橋工場に勤務。その後、東武のSLプロジェクトに携わることになり、SLを所有するJR北海道のグループ会社に出向してSLのイロハを学び、現在は下今市機関区でSL「大樹」の整備に携わっている。鉄道模型は高校の時に出会ったが、本格的な趣味人生のスタートは20代に入ってからだったそうだ。
「35年ぐらい前ですが、たまたま地元の模型屋に行ったら、今はもう走っていない東武の8000系という車両が売っていたんです。それにグッときて、妻に『欲しい』と言ったら、『いいよ』と。それは『キット』という自分で組み立てるタイプのもので、模型を作ったのはそれが初めてでした。
今では400両ぐらい車両を持っていますが、そのうち6割以上、250両ぐらいは東武の車両です。休みの日には、模型を作ったり、自宅で車両を走らせたりしています」