Aさんが訪ねたのは、確定申告の期間に税務署ごとに開いている申告会場だった。2月で申告シーズンが始まったばかりとあって賑わっていたが、15分ほどで順番が回ってきた。Aさんが相談員にこう説明する。
「去年、定年退職して確定申告は初めてです。会社の経理の後輩に、税金の還付を受けられるはずだといわれて書類を持ってきました」
相談員は書類を一通りチェックすると慣れた手つきで電卓を叩き始めた。具体的にどんな手続きを行なうのか。『年金生活者・定年退職者のための確定申告』の監修者で税務相談員の経験を持つ山本宏・税理士の話だ。
「相談会と称していますが、実際は確定申告の手続きをほぼ代行してくれます。会場はビルの大きな貸ホールなどで、相談員は税務署員と地元の税理士会に所属する税理士がほぼ半数ずつ。申告者がやらなければならないのは、相談員がパソコン入力するために書類を整理するくらい。それも相談員が手取り足取り教えてくれます。入力が終わると申告書がプリントされ、それに認め印を押せばその場で受理されます」
Aさんが「拍子抜けするほど簡単だった」というのも頷ける。
還付を受けたい場合、準備したほうがいいのは「国民健康保険」など家族全員分の社会保険料の納付額通知書、病院代など「医療費」の領収書、「住宅ローン」控除を受ける人はその書類などだ。実はサラリーマン時代に年末調整で会社に提出していたのと同じものばかりだ。
「税務申告といっても、年金生活者や再雇用のサラリーマンの場合、個人事業主と違って経費を認める、認めないで税務署ともめることはないから、過剰な心配はいりません。医療費の領収証は、計算しないでまとめて持参し、その場で税理士と整理したほうが計算もあっという間で手間もかからない」(山本氏)
これでまとまった税金が取り戻せるのだから、確定申告をしないのは大損のように思えてくる。