塗装作業で塗らない部分を汚さないよう保護目的として使われるマスキングテープが、今までにないおしゃれな文具へと生まれ変わった。手掛けたのは、なんと創業90年を超える工業用粘着テープの老舗メーカー。その誕生にはある3人の女性との出会いがあった──。
1923年に創業したカモ井加工紙は、天井から吊り下げてハエを捕獲する「カモ井のリボンハイトリ」やビルの建築などに使う工業用のマスキングテープといった、粘着技術と紙で作られる商品に一貫して取り組んできた。特にマスキングテープは、粘着力や耐熱性に優れており、今もなお主力商品とされている。
ある日、カモ井加工紙へ1通のメールがあった。その主は3人組の女性。彼女たちは、工業用のマスキングテープをラッピングやコラージュに利用し、さらにマスキングテープを使った冊子を作るほどの愛用者。マスキングテープを作っているところを見てみたい!と思い、国内のマスキングテープの製造会社を調べ、各社にお願いをしているところなのだという。
得体が知れないなと戸惑ったものの、送られてきた冊子を見てカモ井は驚いた。彼女たちがこだわりを持ち、マスキングテープを今までと違った観点で捉えていたのだ。そのことをきっかけに、2006年の夏、初の工場見学を引き受けた。
工場見学に訪れた3人からは、「色鉛筆のようなテープがあったらいいのに」との声があった。彼女たちの話を聞くうちに文具としての需要があると思い、開発が始まった。しかし、同社は従来、品質にこだわっていたものの、色へのこだわりはなかった。そのため、印刷の知識経験が乏しく、素材で使用する和紙に印刷すると色が沈んでしまうなどの問題も発生。試行錯誤を繰り返し、ようやく20色の無地のマスキングテープ『mt』が完成した。