今回の税制改正論議では「年収850万円超」を増税する方向で検討が進んでいる。だが、それは決して“高収入”の人だけの問題ではない。ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子氏が解説する。
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2018年度税制改正には年収850万円超の層への所得増税が盛り込まれています。高齢者では、年金以外の所得が1000万円を超える場合と年金収入が1000万円超の場合は増税対象となります。「こんな高収入じゃないから関係ない」──そう思う人もいるかもしれません。しかし、本当に「関係ない」のでしょうか。
まず、増税によりどれくらい負担が増えるのか、試算してみましょう。例えば、年収1000万円の場合は約4万円の増税になります。年収1220万円超になると、配偶者控除もなくなるので、増税の影響は非常に大きくなります。
「高収入の人は、もっと負担すべきだ」と安易に考えるのは危険です。日本の所得税率は累進課税で最高税率が45%となっていますが、私が住んでいるシンガポールでは最高税率は22%。シンガポールは富裕層にかける税率を低くすることによって富裕層を呼び込んでいる国です。
ボストンコンサルティンググループの「世界の家計金融資産に関する調査(2015)」によると、金融資産が1億ドルを超える「超富裕層世帯の割合が多い国」は、1位が香港(10万世帯あたり15.3世帯)で、2位がシンガポール(同14.3世帯)、3位がオーストラリア(同12.0世帯)とのこと。
なお、割合ではなく、超富裕世帯の「数」が純粋に多い国は、1位が米国(5201世帯)、2位が中国(1037世帯)、3位が英国(1019世帯)です。100万ドル以上の家計金融資産を持つ「富裕層世帯」は、1位アメリカ(約690万世帯)、2位中国(約360万世帯)、3位日本(約110万世帯)。日本は「超富裕層」のランキングには入りませんが、約1億円超の資産を保有する富裕層の世帯数は世界的に見ても多いことがわかります。
これらの富裕層に税金をかけていくと、この人たちが国外に逃げることが考えられます。資産に関しては資産移転税をかける、あるいは海外送金しにくくするといった対策は取れますが、優秀な人材までもが海外に逃げてしまうことが考えられます。そういった人たちは海外でもお金を稼ぐことができるからです。すると、日本経済全体が低迷し、企業に勤めている人は給料が減るなど多くの国民にとってマイナスになります。