「老いては子に従え」という格言があるが、現実には、「言うは易し、行なうは難し」だろう。
老親は口には出さないが、内心、「死んだら家も貯金も財産は子供のものになるのだから、動けなくなれば面倒を見てくれるはずだ」と期待する。しかし、その頃には、子供たちは自分たちの老後の生活設計を考えるので精一杯。「老老介護」は肉体的にも経済的にも負担が重すぎる。
親と同居するのか、老人ホームに入居してもらうか。将来、実家の家を受け継いで住むのか、それとも売るのか。親の資産は遺産として受け取るか、それとも生前贈与がいいのか。親と子の考える答えは違うことが多く、利害の対立も起きる。
Aさん(58歳)が久しぶりに家族で帰省すると、実家は大工事の真っ最中。両親が相談もなく2世帯住宅への増築を進めていたのだ。工事費は2000万円だという。Aさんはリタイアしたら実家で老親と同居しようかと検討はしていたが、両親とも80歳を超え、定年前に介護が必要になれば老人ホームに入居させた方が安心かも知れないと決めかねていた。
思わず父に噛みついた。
「いつ同居するといったんだ。2000万円も使ったら、老人ホームの入居費用がなくなるじゃないか」
父は青筋を立てて言い返してきた。
「オレの家をどうしようがオレの勝手だろう。耄碌してもお前の世話になるとは言っとらん。同居したくないなら、2階は誰かに貸せばいい」
売り言葉に買い言葉、Aさん家族は親と喧嘩したまま東京に戻ることになった。