父の財産だから母は使えない
では、親の財産を守るにはどうすればいいか。有効なのが「成年後見制度」だ。この成年後見人になっておけば、親が認知症で高額のリフォーム契約を結んだり、借金したり、不動産を売買するのを法的に防ぐことができる。
ただし、重要なのは後見人を決めておく時期だ。親が認知症になった後では、後見人は家庭裁判所が選ぶ(法定後見人)ため、子供が申し立てても後見人になるのは難しい(2016年は家族が選ばれたのは3割以下)。代わりに弁護士や司法書士などが選任されると、親の財産に子供はいっさい触ることができなくなる。
たとえば、父親が認知症で法定後見人が選ばれた場合、子供は母親を老人ホームに入居させるために父親名義の預金を使おうと思っても、後見人が「これは父の財産だから認められない」と言えば、子供は母親の入居費用を自分で工面しなければならない。
母親が重病で高額の医療費がかかっても同じだ。下手をすれば「父の財産」はあるのに、母の介護や病気の治療費がかさんで「親子破産」という事態にもなりかねない。
そうならないためには、親が元気(認知症になる前)なうちに子供を後見人にするという「任意後見契約」(公正証書を作成)を結んでおくのが重要だ。そうすれば、親が認知症になった時に子供が後見人として親の財産を管理できる。『認知症700万人時代の失敗しない「成年後見」の使い方』の著者で行政書士の鈴木雅人氏が言う。
「親子で任意後見契約を結ぶ際には、同時に親の財産の運用も子供に任せるという家族信託契約を結んでおくことを勧めます。後見人は不動産や証券の売却はできますが、新たに投資をすることはできないからです。家族信託を併用すれば子供が親の財産を運用して新たに投資することができ、資産活用の幅が広がります」
高齢者の認知症の割合は75歳を境に約5%から約11%にハネ上がる。それを考えると、70歳になれば親子で「任意後見契約」を交わしておくのが、「親子の財産」を守るポイントになるのだ。
※週刊ポスト2018年3月23・30日号