アメリカは中国に対して、ハイテク技術、ハイテク製品の輸出を制限しており、中国側としてはアメリカが優位に立つこうした製品を大量に購入することができないことが、貿易不均衡の一つの理由である。もし、農産物に追加関税をかけるとすれば、米中間の貿易不均衡はさらに広がるだろう。
中国がアメリカからの大豆の輸入を制限したとしても、中国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ロシアなどから大豆の輸入を増やせばよい。もともと、米中貿易不均衡を軽減する目的で、アメリカから大豆を輸入しているといった部分もあるだろう。
中国における大豆の用途は大豆油、豆腐、みそ、しょうゆ、大豆もやし、豆腐加工商品など多彩だが、輸入大豆はほぼすべてが圧縮加工され、約20%が食料用の大豆油として使われ、残りの80%が搾りかすとして家畜飼料となっている。
もし、大豆の価格が上昇したとしても、油については、ひまわり油、落花生油、コーン油、オリーブ油、ごま油など種類が多く、代替が可能である。南方ではひまわり油の人気が高く、北方では大豆油の人気が高いようだ。豚肉、鶏、ダックなどの価格への影響が多少心配されるが、牛肉、羊肉の価格には影響はなさそうだ。生活に多少の影響が出るかもしれないが、中国経済全体への影響は大きなものではないだろう。
米中間の貿易摩擦は両国の口先の激しさとは裏腹に、実際には大きく衝突することはないのかもしれない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」、メルマガ「週刊中国株投資戦略レポート」も展開中。