「なぜ貯金がないのッ」と怒り出した
なぜか。それは私が人にお金を借りたことが何度もあるからだ。
上京して最初に借りたのは、19才で喫茶店のウエートレスをしていたとき。なけなしの貯金から専門学校の入学金と半年分の学費を払ったら即、サバイバル生活よ。
困ったのは、1足しかない靴の底が壊れたとき。粘着テープで貼って、給料日まで数千円を友達に貸してもらった。「親に借りればいいじゃない」と言う人がいるけど、それができたら苦労はしないって。
その後にも、もう少し入り組んだ事情や、ここでは言えないことで、その場しのぎのウソをついて友達に借りたこともある。当たり前だけど、「貸して」と言うときは、眠れぬ夜を過ごし、覚悟をして切り出すのよ。
その結果はさまざまで、バイト先で仲よくなった2才年下の看護師さんは、喫茶店で「お金を…」と口ごもったとたん、「ちょっと待ってて」と店から出ていって数分後、「はい」と手の上に現金をのせてくれた。
逆のパターンもある。男がらみで力が入っていた30代前半に、借金のスパイラルにはまり込んでいたときのこと。切羽詰まった私は、同業の8才年上のE子さんに半月分の生活費の借金を申し込んだ。
するとみるみるE子さんの顔は強張り、「なぜ彼もあなたも、貯金がないのよッ」と怒り出したの。
その顔のまま、彼の職業から家庭環境を腕組みしながら次から次に質問攻め。そして席を立った彼女は、「貸せないわ」とピシャリ。
「ああ、頼む人を間違えたなあ」と思っても後の祭り。善良な彼女は、私と別れてから借金を断ってよかったかどうか悩んだそう。その足で共通の知人のところに駆け込んで、私の事情を洗いざらい。おかげで私はちょっとした噂の女で何人もの人に、「大丈夫?」と顔をのぞかれたっけ。