「1億の土地」でもタダだったのに
Aさんのようなケースは珍しくないと考えられる。今回の制度改正は相続対策を練っている人にとっては“メジャーな節税法”を狙い撃ちにしたものだからだ。
順を追って説明する。不動産を相続する場合、税制上、最もメリットが大きいのが「小規模宅地等の特例」だ。故人と生前“同居していた”親族が家を相続すれば、土地の評価額が8割減になる。
「たとえば評価額1億円の土地を所有しているとして、別居する一人息子に相続させると相続税は約1220万円。ところが、もしこの息子が生前に同居していれば1億円が80%減額(2000万円)で評価され、3600万円の基礎控除枠内に収まるため、相続税がゼロになります」(税理士法人チェスター代表・福留正明氏)
この制度の適用は「同居」していたことが前提になるが、例外がある。
相続までの3年間、子供が持ち家に住んでいない、つまり賃貸生活を送っていたなら相続した土地に「小規模宅地等の特例」が適用されるのだ。これが“家なき子特例”と呼ばれるものだ。転勤などで親と一緒に暮らせなくなり、赴任先で自宅を購入していない人なども使えるケースがある。
「本当は親と同居したいけど、やむを得ない事情で離れて生活していた親族が土地を相続するようなケースに小規模宅地等の特例の税制優遇を認めて救済しようというのが主旨です」(円満相続税理士法人代表・橘慶太氏)
「節税の“手段”が潰された」
つまり、子は親と同居していなければ小規模宅地等の特例による8割減が適用されない。ただし、別居でも“家なき子”と認定されれば8割減が適用される。
ここに着目した“工夫”の余地、つまり節税法が生まれた。前出・橘氏によると代表的なパターンは3つあるという。
「1つ目は、遺言書を用いて、被相続人の孫に実家を相続させること。これまで“家なき子”が適用されるかの判定は『子供、ないしその配偶者に持ち家がない』という条件で決まっていた。
一方、孫には規定がなかった。つまり、子に持ち家があっても、孫に家を相続させれば、8割減の特例が使えました。そのため遺言書で孫に自宅を相続させる手法が続出したのです」