冒頭のAさんもこの例に近い。東京の実家を継ぐつもりのAさん一家は賃貸マンション暮らしで家を買ったことがない。本来なら、父親からAさん自身が家を相続しても特例の適用を受けられるはずだった。
ところが、名古屋の妻の実家に同居しているときに、妻の親が亡くなり、妻が実家を相続した。Aさんは「家なき子」の資格を失ったため、やむを得ず遺言書を作成し、「孫への遺贈」を書いてもらうことにした。
「ほかにも子供が住んでいる持ち家の名義を変えることで、“家なき子”に見せる方法もありました。自宅を親に売却し、親から賃貸するケースや、富裕層においては親が子のために自宅を買い、家賃無料で住まわせるケースもありました。
こうした不動産の名義を工夫して“家なき子”にみせる節税テクニックは今年4月の税制改正で使えなくなった。今後は子が持ち家を売却して親と同居するか、離れて生活するなら賃貸に住み続けるという本来の主旨に合致した“家なき子”しか認められません。
経過措置が設けられているため、改正前までに旧要件を満たしていた人の場合には、2020年3月31日までに相続が発生した場合に限り、改正前の“家なき子”特例が認められます」(同前)
だが、人がいつ死を迎えるかなど誰にもわからない。現在、Aさんは父、弟と3人で協議を重ね、遺言書の書き直しを迫られている。
※週刊ポスト2018年4月27日号