「相続税を節約する方法」など巷には「相続対策」が溢れている。しかしそこには、抜けている視点がある。あえて、「相続しない」という選択肢だ。というのも、親が残した不動産や土地は価値がないばかりか、余計な固定資産税やら草むしり費用や解体費用がかかったりするケースもあるからだ。
悩ましいのは、親が不動産の他に現預金など金融資産を残していた場合だ。民法では、相続人が相続を承認するか、放棄するかは本人の意思で決めることができる(915条)。だが、遺産のうち「不動産だけを放棄」というやり方はできない。どちらも相続するか、どちらも放棄するかの選択になる。
例えば老親の資産が田舎の家屋と預金500万円というケース。田舎の家屋は維持費が嵩む上、廃屋化した場合には地方自治体から数百万円もの撤去費用を請求されるなどの例もある。将来、“金食い虫”になりそうな不動産はいらないが、現金資産を“捨てる”のはもったいない。
そういう場合はどうするか。「親が存命中に金融資産を使い切らせる」という方法がある。高齢の親が入院したり介護が必要になった時、親に貯蓄があっても費用は子供が面倒を見るケースは多い。
親は「自分の預貯金はいずれ子供が継ぐのだから入院費を出してもらってもいいだろう」と考え、子供は“親孝行”と思っているが、親子の合計資産と相続を考えると必ずしも賢明なやり方とはいえない。
むしろ、親子で「預金を使い果たしても、ちゃんと面倒見るから心配はいらない」と話し合ったうえで、親に預金を使わせた方が相続時の選択がしやすい。