卒業から50周年を記念して開かれたある中学校の同窓会。上場企業を定年退職したばかりのA氏(65)は、隣に座った旧友のB氏から、「僕は定年後もほぼ毎日、やらなきゃいけないことが多くてねぇ」と話しかけられた。ボヤキ口調だが、なぜか表情は嬉しそうだ。
「Bの手帳を見ると本当にスケジュールがビッシリ埋まっていました。理由を聞くと、町内会のサークルやボランティア活動などに参加しているとのこと。
私は定年後、次第に外出機会が少なくなり、正直、何をすればいいかよくわからない毎日を過ごしているので、日々忙しいBの姿にショックを受けました」(A氏)
B氏は高校を卒業後に地元の中小企業に入り、定年まで勤め上げた後、再雇用を経て、やはりリタイアしたばかり。東京の私大に進み、有名企業の幹部にまで出世したA氏は“Bより成功した人生”と内心では思っていた。ところがB氏の溌剌した顔を見て胸には鬱屈した感情が渦巻いた。
「血色がよく溌剌としたBを見て、“もしかしたら、本当に幸せなのは彼のほうかも”と思えてきたんです。私はこれまでガムシャラに働いてきたけど、いざ定年になってみるとお金や時間の余裕はあるものの、人生がつまらない。Bのほうがよほど健康的な生活なんです」(A氏)
シニア世代ほど資産と幸福度の相関関係が薄れる
これまで「老後」について語られてきたほとんどがカネにまつわるものだった。もちろん老後資産への不安はもっともだが、一方でおカネがあっても、それが老後の幸福に結びつくわけではない。