「これからは御用聞きの時代だ」。セブン-イレブンの元会長・鈴木敏文氏は10年以上前から口癖のようにこう言っていたという。彼の言葉通りの仕事で、社会を変えようとしている企業がある。その名も、株式会社「御用聞き」。齢39才で同社代表を務める古市盛久さんの日常は、超高齢社会に突入した日本の縮図ともいえるものだった。
古市さんが経営する御用聞きは、5分100円からの家事代行を行う会社だ。電球や電池の交換、宛名書きなどを請け負う。「ビンのフタを開けてほしい」という依頼が全体の1割にも及ぶという、人の小さな願いに寄り添う仕事である。
ときにはこの仕事は、御用聞きのサービスを超越する。毎日通い、介護事務所や地域の民生委員たちと顔見知りになる中で、ある日、1週間前から連絡が取れないおばあちゃんの話を聞く。すぐに確認に行き、孤独死を防いだこともある。
人の命を救う力にもなり得る御用聞き。それは、古市さんの挫折から生まれたものだ。父は祖父が興した会社を経営していた。そんな環境からか、小学生時代から起業家に憧れた。
「宅配便を考えた人ってすごいな。ぼくも新しい業界をつくりたい」
そう思いながら、黒猫のイラストが描かれたトラックを眺めた。
「小学校低学年くらいでちょうどファミコンが流行り始めたのですが、ファミコンって楽しいなというのと同時に、これを最初に考えた人はすごいと思う子供でした」