「他人様に迷惑をかけるな」といわれて育った世代の遠慮深さは、ともすれば本人を思わぬ事態に追い込む。SOSをなかなか言い出せないまま困難を抱え込み、ときに命の危険を伴う事態にならないとも限らない。
壊れたインターホンは、実は電池切れだった。古市さんが新しいものに替えると呼び出し音が鳴った。
「ピンポーン」──女性は顔をくしゃくしゃにして喜んだ。よく見ると、やせた頬に涙がつたっている。「これで安心して眠れるわ」。何度も頭を下げ、300円を渡してくれた。古市さんはもらった瞬間、背筋が震えた。
「あのとき初めて、生活者の真のニーズにふれたような気がしました。これこそが、自分の仕事だ、と。100円家事代行に命をかけようと決意した瞬間でした」(古市さん)
そして2010年。御用聞きの仕事をたったひとりで始めた。事務所を構えたのは、練馬区の光が丘団地。2年前に拠点を板橋区にある高島平団地に移した。およそ8500世帯が居住し、約1万7000人が密集するマンモス団地は、65才以上の居住者が4割を占める。
※女性セブン2018年6月28日号