2020年卒業予定の大学生たちは、事実上の就職活動をスタートさせている。今後、会社説明会(セミナー)やエントリーシートなどで、大学名でこっそり学生をふるいにかける「学歴フィルター」に直面する人が増えていくだろう。学歴フィルターは、過去にも何度もそれが露見して炎上したことがある。一方で「学歴はその人の努力の結果なのだから、学歴差別の何が悪いのか」という主張もよく耳にする。果たして学歴は本当に努力の結果なのか。『学歴フィルター』(小学館新書)の著者で就職コンサルタントの福島直樹氏が解説する。
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学歴フィルターが問題になると、「もっと努力すれば偏差値の高い大学に合格できたはずだ」「勉強しないで遊んでばかりいてFラン大学にしか入れなかったのは自己責任なのに」といった批判が必ず出てくる。インターネット上には実に大量にこの手の書き込みが溢れている。
その手の主張をする人たちは、勉強という努力をした人が評価されるのは当たり前だという考えを持っている。つまり彼らは、社会的公正性に欠く、と言っているのだ。これは一見それなりに説得力があるようにも感じられる。私はこれを「努力評価説」と呼んでいる。
だが、この説は欺瞞に満ちている。そして他者への想像力が欠如しており、愛がない。努力評価説の問題点を明らかにしていきたい。
1990年代末から2000年代にかけて貧困、非正規雇用、ワーキングプアなどの不平等、経済的格差拡大が社会的問題となった頃から、親が高収入、高学歴で社会的地位の高い職業に就いていると、その子どもは同じく高学歴を手に入れて給与も地位も高い仕事に就くことが多く、その逆もしかり──そんなことが指摘されるようになった。
それが真実ならば、努力評価説の根拠は失われる。
親の学歴や収入は子どもの学力に影響するのか。もしそうだとすれば学歴フィルターは格差を固定するシステムということになる。
それではまず、義務教育における状況を見てみよう。
文部科学省が毎年実施する「全国学力・学習状況調査」は全国学力テスト、あるいは「学テ」と呼ばれ、小学生6年生、中学3年生に対して国語、算数(数学)、理科のテストを行い、同時に生徒の学習・生活環境のアンケート調査も行う。新聞、テレビでもたびたび報道される有名な調査だ。
2013年(平成25年)実施の「学テ」では例年の調査内容に加えて、「きめ細かい調査」が行われ、親の学歴、世帯年収、教育への取り組み状況なども聞いている。全国レベルで保護者世帯の学歴、年収までを聞いた調査はこれまでなく、非常に貴重なものだ。
これをもとにお茶の水女子大学が、家庭の社会経済背景と生徒の学力の関係を調べた研究がある。「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」がそれだ。