当時常見氏は、トヨタとリクルートというそのジャンルではトップの合弁会社という画期性をメディアに伝える「企業広報」に加え、企業風土が違う2社から集められた人材(さらには年代も違う!)が集う企業の融合を推進するべく「社内広報」も担当しました。外部に対する広報では、将来的なクライアントになる企業からの受注を受けることが狙いで、社内に対しては従業員のモチベーション向上や相互理解の促進を担ったのです。
その時の常見氏の一つの解が「自社に関する本を商業出版として発刊する」でした。企業の書籍を出すには「自費出版」という手立てはありますが、それではカネがかかるばかりか、厳しい目を持った編集者のお眼鏡にかからないつまらない企画である、ということを暴露するようなものです。
常見氏はビジネス書として定評のある出版社で、その中でもヒット作を手がけていた編集者・A氏のところに押しかけプレゼンをしたのです。
「私の方で先方、そして社内調整はすべてやります」
それで、常見氏は過去に社内報で書いた原稿をベースとし、アツいプレゼン資料を作り、汗をかきながら熱弁をふるい、A氏を説得します。そして、その企画がGO!となったことを、常見氏は会社にいる時に電話で知りました。高揚しながら会社を出たところでコンビニでビールを買い、この日は贅沢をしよう、とばかりにタクシーに乗り一人祝杯をあげます。ビールを飲みながらこの企画をどう進めるか、と考えた時に当時フリーライター・編集者になっていた私のことが頭に浮かび電話をしてきました。
「おい、キミに頼みたい企画があるんだ!」
「なんだよ、なんでもやるぞ!」
「キミの名前で本を書かないか?」
「えっ? オレ、本なんて書いたことねーぞ! しかも、ライターになってまだオレは特に実績ねーぞ! なんの本だよ!」
「オレの会社がやっているトヨタ生産方式のコンサルタントというか、指導の現場をする『トレーナー』とクライアント企業の活動をつぶさにレポートして、現場のOJTがいかに重要かをケースとともに紹介する本を書いてほしいんだ」
「えっ!?」