日本は「老人天国」と言われる割にそれを実感している当事者は少ないかもしれない。実際にどれだけ「シニア優遇」の制度があるかをほとんど知らないからだ。老後生活の隅々にまで行き届いたこの公的優遇を使わない手はない。長生きするほど得をする「老人天国」はすぐそこにある。
75歳のAさん夫婦は2人で年200万円ほどの年金でつましく暮らしていた。ある朝起きると、妻が布団に大量出血。直腸のポリープが破裂して下血したのだ。検査で直腸ガンとわかった。末期ではなかったが、医者は緊急に手術した方がいいという。
「がん治療なんて、年金で医療費を払えるだろうか。蓄えも乏しいのに」
Aさんは目の前が真っ暗になり、“老後破産”の文字が浮かんだ。
数か月後、送られてきた医療費の明細を見て驚いた。入院費、手術代など治療にかかった総額は1か月だけで300万円を超えていた。しかし、Aさんが実際に窓口で支払った入院費は病院食、レンタルの病衣、紙オムツ代など自己負担分を合わせても10万円ほどだ。しかも、医療費のうち2万4600円を超えた金額は後に妻の口座に還付金として戻ってきた。経済ジャーナリスト・荻原博子氏が語る。
「高齢者は病気になった時の医療費を過度に心配して、定年後に民間のがん保険に入り、少ない収入から無理して保険料を掛けてしまうケースが少なくありません。
しかし、高齢になれば病気のリスクは高まるが、逆に医療費の窓口負担額は現役時代より下がる。75歳以降の後期高齢者は原則1割負担のうえ、年金世帯の多くは住民税非課税世帯だから月2万4600円を超える部分は申請すれば還付されます」