年金が減らされる中、多くのシニア世帯は退職金も使わず、貯蓄に励んでいる。総務省の家計調査によると、65歳以上の高齢者のうち4割以上が「2000万円」を超える貯金を持ち、貯金1000万円以上も6割に達している。
「それでも相続税がかかるような金額じゃない」と思うのは間違いだ。人生100年時代には年金からさらに貯金が積み上がっていくからだ。
夫がサラリーマンOB、妻は専業主婦で夫婦の年金合計が約22万円(厚労省の標準モデル)の世帯の場合、65歳の受給開始から100歳まで35年間受給すると年金総額はざっと1億円に迫る。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。
「老後にゆとりある生活をするには月35万円以上の生活費がかかるといわれますが、それは元気で交遊の範囲が広い60代のことです。必要な生活費は70代後半になると大きく減る。80代の夫婦で持ち家なら、とくに切り詰めているつもりはなくても生活費が月10万円もかかっていない世帯はざらにあります。
つまり夫婦で年金収入22万円の世帯は、毎月12万円以上が貯まっていく。人生100年時代になれば、年金振込口座には80歳からの20年間だけでも3000万円近い預金が増える計算です。他に2000万円の金融資産と不動産があれば、ごく普通のサラリーマンOB世帯でも簡単に相続税の課税対象になってしまう」(荻原氏、以下「」内同)
政府はそれを見越して相続税の課税基準を引き下げて徴税の網を広げた。