デフレ不況が長く続いた日本では、モノの値段は上がっていない――そんな“常識”が覆される驚愕の事実が明らかになった。しかも高齢者だけがインフレに襲われていたというのである。定年後の家計を考える上での前提が、いま、大きく揺らいでいる。
日本は長いデフレの中にあり、景気回復には“緩やかな物価上昇が必要だ”と政府は言っている。でも、その実感はない。妻と買い物に行くたびに、“あれ? この前よりも値上がりしている”と感じることばかり。決して贅沢をしているわけじゃないのに、なぜ――そんなリタイア世代の肌感覚の嘆きが、間違いではなかったことが実証された。
〈高齢者を直撃する物価上昇~世代間で格差~〉
ニッセイ基礎研究所が今年6月に公表した衝撃的な内容のレポートの表題だ。同研究所経済研究部研究員の白波瀬康雄氏が解説する。
「平均的な世帯が消費する財・サービスを基準に、消費者物価指数というものがはじき出されます。これは簡単に言うと、『世の中の平均的な物価』を示しており、直近で見ると、2017年の消費者物価指数は前年比プラス0.5%。2年ぶりに物価が上昇に転じました。
ただ、その消費者物価指数の変動について、年齢層を3つに分けて調べてみると、世代によって大きな違いがあると判明しました。2014~2017年の4年間で39歳以下の上昇率が3.7%だったのに対し、60歳以上では5.5%だった」
つまり、同じ日本で生活しているはずなのに、年齢が違うと、買っているモノの“値上がり具合”には1.5倍もの差があるということだ。なぜそんなことが起きるのか。理由は、消費志向の違いにある。
「世代によって、お金の使い方は違ってきます。どんなものにお金を使うことが多いのか、という消費ウエイトで見ていくと、60歳以上が比重を多く置いている生鮮食品、住居の修繕費用、交通・通信のうち固定電話料金などが、全体を平均した物価上昇率を上回っていました」(同前)