ニッセイ基礎研究所が今年6月に〈高齢者を直撃する物価上昇~世代間で格差~〉と題する衝撃的な内容のレポートを公表した。
消費者物価指数の変動について、年齢層を3つに分けて調べると、世代によって大きな違いがあり、2014~2017年の4年間で39歳以下の上昇率が3.7%だったのに対し、60歳以上では5.5%となったという。デフレ時代といわれるものの、高齢者にとってはインフレだったのだ。
理由は、消費志向の違いにある。どんなものにお金を使うことが多いのか、という消費ウエイトで見ていくと、60歳以上が比重を多く置いている生鮮食品、住居の修繕費用、交通・通信のうち固定電話料金などが、全体を平均した物価上昇率を上回っていた。
“60歳以上限定のインフレ”が進行しているとなると、問題になるのが、定年後の家計を支える年金だ。「物価」は毎年の受給額が決まる上で大きなカギとなっているからだ。「年金博士」こと北村庄吾氏が説明する。
「かつて、年金支給額の決定には、物価の上下動に伴って支給額も増減する『完全自動物価スライド』というシステムが用いられていました。物価が3%上がれば、支給額も3%上がる。それによって、年金受給世帯が一定の生活水準を保てるようになっていました。
その仕組みが大きく変わったのは、2004年。物価に加え、賃金の伸び率や年金の原資となる保険料を納める現役世代の人口、平均余命の伸びなどを考慮して支給額を決定する『マクロ経済スライド』に切り替わった」
どちらも、年金額が物価に左右される仕組みだ。問題は、「日本の平均的な物価」が上がっていない間に、60歳以上が買うものの価格は大きく上昇していたということ。それなのに「物価が上がっていないから、年金を上げない」という理屈で、気づかないうちに負担増を強いられてきたのだ。北村氏が続ける。
「買っているものの値段が上昇して支給額は据え置きですから、年金が減らされているのと同じことと言えるでしょう。さらに言えば、政府は今後、受給開始年齢の引き上げなどさらなる年金カットに動こうとする姿勢を見せています」