「冷えてもおいしいから、お弁当にもおすすめですよぉ!」
「シャキシャキの玉ねぎに合いますよー!」
ジュージューと豚肉が焼けるおいしそうな音とにおいが漂う精肉売場に、歌うような女性の声が響くと、すぐに人だかりができる。
4才の女の子を連れた主婦は、「子供の目線で試食のお肉を差し出されて、つい買っちゃった。『タレを入れて焼くだけだから、今日の夕食が楽になりますよ』と言う言葉がダメ押しでした」と笑う。
彼女のもとに「久しぶり~!」と駆け寄ってきた59才の主婦は、「この人に会うと元気になるから買いに来るのよ。レシピもわかりやすく教えてくれるの」と興奮気味だ。笑顔で応える彼女の隣で、陳列されていた商品が瞬く間に減っていく。
彼女の名は、土屋美香さん(34才)。埼玉県の『イオン浦和美園店』で試食販売員として働いている。土屋さんがスーパーに立つ日は、新人販売員と比較すると売上が30倍もアップする。そのため、彼女がシフトに入る日は、店舗がメーカーに、通常の5倍、商品を発注するのが常だ。さらにクリスマスや土用の丑の日など、客足が見込める重要な日は、各社がこぞって土屋さんを「指名」。
ネット通販の拡大やドラッグストアの台頭で、近年はスーパーマーケットが苦戦を強いられているが、救世主となるのが試食販売だ、とイオンデモンストレーションサービスインク・エリア事業部の大野隆司さんは語気を強める。
「試食販売員の役割は、ひと昔前と大きく変わりました。お客さまに時短メニューの提案をしたり、その場で調理や素材の相談を受けたり。これはネットやドラッグストアにはない、スーパーならではの強みです」