「工夫をすればどんな食品でも自身を持って販売できる」
今や全国のイオンの試食販売で1位を記録する土屋さんだが、そこに到達するまでの道のりは険しいものだった。
試食販売を始めたのは約9年前。子育てを機に仕事をやめていたが、家の中で過ごす日々に孤独を感じ、「社会とつながりたい」と仕事を探すようになる。それまでは倉庫整理や事務の仕事などで、接客の経験はほとんどなかった。
「たまたま受かったのがこの仕事だったから、内容もあまり把握していなくて、最初は、ただ立っているだけでいいのかな?と思っていました」(土屋さん。以下「」内同)
初めて売ったのは、「ピザクラフト」と呼ばれるピザの生地。
「今思えば、その頃の私は甘かった。初日から、試食販売という仕事の難しさ、厳しさに打ち砕かれました。『ピザクラフト』は生地にピザソースを塗って、サラミやチーズをのせ、トースターで焼いて、ようやく試食として出せる。もちろんすべて1人でやります。工程が多いうえやけどにも注意しなければいけない。本来なら、お客さまに説明しながら調理し、試食品を配るのですが、作るのに必死で、会話どころではない。無言でひたすら試食を配る “配給おばさん”と化してしまいました」
徐々に調理にも慣れ、声も出せるようになったが、なかなか思うように売れない。成長したと確信したのは、スーパーに立ち始めて約2年、パンを売った時だった。
「パンの魅力はふわふわ感ですが、上からナイフを入れて十字に切るとぺしゃんこに潰れてしまう。いろいろな切り方を試しているうちに、横から中央にナイフを入れて、上下左右に切ると形が崩れないことに気づいたんです。そうやって工夫すれば、どんな食品でも自信を持って販売できるとわかったんです」
コツをつかんだ土屋さんはさらに研究を重ね、客のライフスタイルに合った試食の出し方とトークスキルを獲得していく。売上はうなぎ上りだった。
「さりげなくお客さまのかごの中をチェックして、じゃがいもとにんじんと福神漬けが入っていたら、今夜はカレーだなと予想します。そこで、『このチーズ、サラダに入れてもおいしいんですよ』とカレーに合う一品を提案する。会話の中で、自分で考えたレシピを伝えることもあります」