借金が続く中でのたった一つの朗報
A氏が兄と弟から借りた200万円が尽きた時、今度頼った相手は妹である。妹は夫に頭を下げ、なんとか50万円を用立てた。そして、続いてA氏が頼ったのは、なんと弟の妻だ。きょうだい3人の配偶者の中で最も仲が良かったのが弟の妻なのである。そして、A氏は彼女の実家を訪れたことがある。よって、「実家のお父さんに用立ててもらえないか? ただし、弟には内緒で」と彼女に依頼したのだ。
彼女はA氏の窮状を気の毒に思い、実家から50万円を用立てた。実家の父は「あんなにエライ先生様がどうしたこっちゃ?」と仰天していた。
そして次に再びA氏は兄と弟に借金の依頼をする。ここまで来ると、A氏の借金は一族全体を巻き込む大問題となり、両親・兄夫婦・妹夫婦・弟夫婦の8人は月に1回ほど会って対策会議をするようになる。
この際、必ず出た言葉は「あんだけ羽振りの良さを自慢されていたんだから、オレらは正直協力なんてしたくない」ということと、「サラリーマンをバカにしやがったくせにサラリーマンを頼るなんてカッコ悪い」ということだ。「もうAとは縁を切ろう」と過激なことを言う者もいた。
A氏の借金は額を低くしながらその後も続いたが、一つだけ朗報があった。A氏の長男が大学を卒業し、就職したのだ。長男は父親を反面教師とし、「オレは堅実なサラリーマンになる」と言い、就職氷河期ながら必死に就職活動をし、無事に堅実なメーカーに就職することができた。社員寮に入り、清貧生活を続けることで実家に毎月10万円ほどを仕送りし、ボーナスも全額渡した。
結果的にローンの組み換えなどをして、A氏の借金生活は終了したが、この一族は過去のように定期的に会うことはなくなった。一人の借金癖が全体を壊してしまったのだ。ただし、A氏の息子の立派さは今でも語り継がれ、A氏はおらずとも息子を食事に招待するなどは誰ともなくやっているようだ。