現在の年金制度は、原則、「65才」から年金を受け取り始めて、死ぬまで受け取れる。一部の世代だけは「60~64才」でも部分的に年金を受け取れるが、あと数年でそんな特例制度も終わり、一律65才での受給開始になる。
そうした中で受給を開始する時期を60~70才の間で自由に選ぶことができる年金の「繰り上げ、繰り下げ」制度だ。この制度を選択すると、年金額も変化する。「年金博士」こと、ブレインコンサルティングオフィスの北村庄吾さんが語る。
「繰り上げは、通常より早く受け取れる代わりに年金額が減額されます。反対に、繰り下げは本来受け取れる時期より遅くもらう代わりに年金額が大幅にアップします」
繰り上げは「1か月ごとに0.5%」ずつ、1年で6%減額される。仮に、5年間繰り上げて60才から受給すると、受給額は「0.5%×12か月×5年=30%」の減額だ。
一方、繰り下げは「1か月ごとに0.7%」ずつ、1年で8.4%の増額となる。最大の70才まで繰り下げると受給額は「0.7%×12か月×5年=42%」もの増額になる計算だ。
「繰り下げをすると、超低金利の現代では驚くほどの“高い利率”で、年金額が増えていきます。数字だけ見るとこれはかなりオイシイように見えますが、70才に繰り下げた人が69才で亡くなったら、一銭も年金を受け取れずに大きく損をすることになります。
それならば、繰り上げて早めに受け取っておけばいいかというと、そうとも限りません。もし女性の平均寿命(88才)まで生きたとすると、標準的な夫婦が生涯で受け取るトータルの年金額は『60才で繰り上げ受給開始』ならば約4622万円である一方、『70才で繰り下げ受給開始』ならば約6028万円です。平均寿命まで生きる夫婦が繰り上げて受け取ったら、最大約1400万円も損をするということなんです」(北村さん)