相続権利者の盲点
思わぬ相続人の“登場”でトラブルが起きるケースがある。
埼玉県在住の50代男性A氏は昨年末、兄を急な事故で亡くした。独身貴族を謳歌していた兄には都内のマンションと4000万円ほどの預金があり、A氏は妹とともに相続の手続きを開始した。
だがその矢先、思わぬ人物が目の前に現われた。40年以上前に家を飛び出し、不倫相手のもとに走ったA氏の母親だった。
どこで兄の死を聞きつけたのか、家族を捨てたことへの謝罪もなく、遺産相続を主張する母親にA氏は怒り心頭。すぐに税理士に相談した。
だが返ってきたのは驚きの言葉だった。
「お兄様には配偶者も子供もいないので、母親だけが法定相続人になります。あなたと妹さんに相続権はありません」
民法上、被相続人に法定相続人の第1順位である配偶者と子供がいないケースでは、第2順位は父母、祖父母となり、兄弟は第3順位となる。理不尽な「法の壁」にA氏は言葉を失った──。
昨今、連れ子のいる者同士の再婚は珍しくないが、ここでも相続の落とし穴がある。30代のB氏の母親は離婚後、やはり子持ちのバツイチ男性と入籍。最近、この男性が亡くなった。
すでに成人していた連れ子同士に交流はなかったが、新しい父親とは馬が合い、親しく酒を酌み交わす関係だった。そうした関係もあって、B氏は自分にも相続権があると思っていた。だが父親の死後、葬儀の場で、父方の連れ子から「あなたへの遺産はない」と告げられた。
「連れ子を持つバツイチ同士が再婚した場合、妻は新しい夫の戸籍に入ります。だがその際、夫が妻の連れ子と養子縁組の手続きをしておかないと、戸籍上は“赤の他人”のままで、遺産相続の権利はありません。B氏のように、母の再婚相手が逝去した後、初めて相続権がないことに気づいたという相談は結構あります」(税理士の渡邊浩滋氏)