2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げに備えて、奇妙な景気対策案が伝わってくる。そもそも、なぜ消費増税をするのか、それによって得られる効果は何なのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、「哲学なき消費増税」の欺瞞を指摘する。
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オーストラリアは2000年7月、10%の「GST」(Goods and Services Tax/商品・サービス税)を導入した。ジェトロ(日本貿易振興機構)のHPによれば、GSTはオーストラリア国内で消費されるほぼすべての商品・サービスに課されるが、大半の食料品や教育関連費、医薬品などは非課税だ。その是非をめぐって10年近く国民的議論を重ねた上で、最終的にはいきなり10%で導入が決まった。
日本は、GDP(国内総生産)の2倍近い1100兆円以上の借金(国および地方の長期債務残高)を抱えている逼迫した財政状況を踏まえれば、消費増税は不可避である。ただし、8%を10%に上げたところで、どうにもならない。2%の増税によって増える税収は年間約5兆円とされるが、それではプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化にも程遠い。
仮に1100兆円を40年間で返すとすれば、単純計算で年間27.5兆円の税収増が必要となるが、消費税2%で5兆円なら、さらに5.5%上げる必要がある。10%+5.5%=15.5%だ。しかし、国立社会保障・人口問題研究所の推計(2017年)によると、日本の総人口は2065年に8808万人にまで減少する。そうなれば消費も大きく減退するから、私の試算では、消費税を25%程度にしないと借金は返していけない。軽減税率やポイント還元で景気対策をやっている余裕はないはずだ。
EU(欧州連合)の場合、加盟国には単年度の財政赤字がGDP比3%以下、公的債務が同60%以下という基準を順守することが義務付けられている。しかし、イタリアは公的債務が130%超に達しているため、EUから2019年予算の見直しを要求された。日本は、それが200%近くに膨らんでいるのだ。事実上、イタリアどころか、自国通貨が暴落したベネズエラやアルゼンチンと同じような状況なのである。