絶対的な権力者──カルロス・ゴーン容疑者(64)は、社内でそう形容するしかない地位を築いていた。その不正を暴くことを決めた経営陣の覚悟は、並大抵のものではなかった。失敗すれば85年の歴史を持つ「日産自動車」の存続さえ危うくなる。玉虫色の決着はない。突然に見えた逮捕劇の裏で、周到な準備が進められていた。
ゴーンの「元右腕」の告白
ゴーンに“告発”を察知されてはならない──そんな危機感から日産の経営幹部たちは、およそ8か月にわたり、水も漏らさぬ情報管理を行なっていた。
「私もニュース以上のことは、本当に何も知らされていないんですよ」
インターホン越しにそう話したのは、日産の元最高幹部である小枝至氏(77)だ。ゴーン氏が初めて仏ルノーから日産に送り込まれた1999年当時の副社長で、2兆円にものぼる有利子負債を抱える経営危機からの脱却を目指した“初期ゴーン体制”の最高幹部である。
2003年には会長に就任し、「現在の西川廣人・社長を評価し、引き上げた」(経済部記者)といわれる。現在は相談役からも退いているとはいえ、「社の命運を左右する重大事案は、経営トップが報告・相談して当然の超大物OB」(同前)だが、11月19日の“逮捕劇”について、何も知らされていなかったというのだ。
ただ、逮捕劇の裏側を知れば知るほど、それも不思議ではなくなる。