ホテルの“顔”と言える、ラウンジ。中でも高級ホテルでは、夜になると生演奏が聴けるところも少なくない。代々、有名ホテルを経営している家に生まれ、小さい頃から多くのホテルを見てきた女子大生コラムニスト・小林千花氏が、3つのホテルラウンジのBGMをリポートする。
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高級ホテルのラウンジの使い方は人によって様々。アフタヌーンティーを楽しむ人もいれば、打ち合わせや商談などで訪れる人もいる。それらの使い方は昼の時間帯がメインだろう。一転、夜になると、ラウンジはまったく違う表情を見せる。私は、夜のラウンジの魅力のひとつは生演奏による音楽(BGM)だと思う。今回は、実際に訪れた3つのホテルのBGMを比較してみよう。
港区・六本木にある東京ミッドタウンのミッドタウン・タワー45~53階に入る「ザ・リッツ・カールトン東京」は、マリオット・インターナショナルが世界規模で展開しているラグジュアリーホテルだ。
エレベーターで45階に上がりロビーに向かうと、大きなクリスマスツリーが目に飛び込んでくる。今年のツリーはイギリスの高級靴ブランド「マノロブラニク」とのコラボ。正面にはマノロブラニクの靴が飾ってあり、オーナメントはシンプルだが一つ一つ靴のデッサンが描かれていて遊び心を感じさせる。
ちなみに昨年のツリーはイタリアの高級ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」とのコラボ。そちらのほうがリッツ・カールトンの豪華な雰囲気に合っていたようにも思えるが、今年のツリーもラウンジを華やかにしているのは間違いない。
紅茶のリストから選んだのは、ストロベリーシャンパーニュ(1500円)。ここ「ザ・ロビーラウンジ」では、夜は毎日20時から生演奏が行われていて、日によってシンガーとのセッション、ヴァイオリニストやギタリスト、ピアニストによる演奏などが楽しめる。20時以降はエンターテイメントチャージとして2500円かかる。
私が訪れた夜は、ピアノ、トランペット、ギターによるジャズと女性シンガーによるセッションだった。クリスマスのジャズのリズムを聞いていると、思わずお酒を飲みたくなってくる。ロゼワイングラス(2200円)を追加オーダー。音楽に酔いながら飲むお酒は心地いい。ラウンジにいたお客さんも一つになり、耳を傾ける。気付いたらあっという間に時間が過ぎていた。
別の夜、東京駅構内にある「東京ステーションホテル」を訪れた。東京駅丸の内側から1枚扉を開けると、空気の質が変わったような、あるいは別世界に来たような印象を受ける上質な空間が広がる。
平日にもかかわらず混み合っているロビーラウンジでは、ハープの音色が響き渡っていた。日曜日以外は、毎日生演奏が行われているそうだ。
頼んだのは「ホテルオリジナルフレンチトーストセット」(珈琲または紅茶付き、2625円)。ドーム型のガラスの器で提供され、蓋を開けるとブリオッシュ生地の丸いフレンチトーストが現れる。フレンチトースト生地に甘みが染み込んでいて、フルーツの酸味と合う。
ハープが生み出す豊かな響きとロビーラウンジのクラシックな雰囲気があいまって、柔らかくあたたかい空間に感じられた。海外では、手術中にハープの音色が流される病院があるというほど、その音は緊張を和らげ、落ち着きをもたらす効果があるとされる。90分ほど滞在したが、そこに流れる空気や接客、そしてフレンチトーストの味も含めて約3000円と考えると、非常にコストパフォーマンスが高い。