日本では今、年末年始の宴会シーズン真っただ中であるが、生死にかかわるほど飲む人はまずいない。しかし、中国ではそうでもないらしい。
アメリカの雑誌、Forbesによれば、世界195か国における1990年から2016年にかけての飲酒による15~49歳の男性死亡事故件数をみると、国別では中国が65万人で断トツとなっている。第2位はインドで29万人、第3位はロシアで18万人、第4位はブラジルで7万6000人、第5位はアメリカで7万1000人である。以下、ベトナム、ウクライナ、ドイツ、メキシコ、フランスの順で、幸いにも日本はベストテンには入っていないようだ。
女性の死亡事故件数のデータもあるが、女性の事故は男性と比べて圧倒的に少ない。たとえば最多の中国でも事故件数は5万9000人であり、女性は男性の9%に過ぎない。
事故を起こす大半の理由は酒の無理強いか、飲酒経験の少ない若者による一気飲みである。女性の事故件数が少ないのは、そういうことが圧倒的に少ないからであろう。
中国では、年配者が若者に対して、宴席で酒を勧める言葉の一つとして、「感情深、一口悶、感情浅、テン一テン(「テン」は舌偏に忝)」といった言い方がある。「感情が深ければ一気に飲み干し、感情が浅ければ舐めるように飲む」という意味だ。
酒を飲むことで、相手に誠意や信頼を示す。酒が飲めることが男としての格の高さを示す。こうした考え方が中国文化の中に根付いている。
それは、取引先との宴席でも、仲間同士の飲み会でも、親戚の集まりでも、同じである。日本でも昭和の飲み会は正にそんな感じであった。
筆者が社会人になったばかりのバブル期は、まだ、社内の上下関係は厳しく、先輩の誘いは断りにくい雰囲気があった。飲み始めると3次会まで引っ張りまわされ、最後はタクシーで帰るというような生活が1週間に2、3回あった。
現在の若い方たちには想像がつきにくい状況かもしれない。パワハラも部下教育の一環として当然のように行われていた時代である。もっとも、そうして修羅場を潜り抜けて築き上げた人間関係は強固であり、社交力は飲酒を通じて鍛えられた部分も大きい。企業の強さは営業力にあり、それは、飲酒文化の上に成り立つ社交力の強さによるようなところもあった。