実際のところ、期限が到来したかの判断は容易ではありませんが、飲み代がかさめば、支払い見込みがなくなります。となると、特別な事情がない限り、飲食代の回収を断念しかねないような出世払いで飲ませてくれたとは思えません。ママさんは、あなたの懐具合を慮って請求を待っているだけ。ですから、「ツケを払ってね」といわれれば、支払う義務があります。
現行民法では、飲食代の時効は1年です(2020年4月1日施行の改正民法では5年)。1年前の飲み代は、ツケを承認するなどの時効中断がない限り、消滅時効にかかります。ただし、馴染みの飲み屋のママさんに消滅時効を主張し、債務を免れるのは好意を裏切る背信行為で、外聞もよくありません。それこそ支払えないことを承知で飲み食いした無銭飲食だと非難されます。
正直に事情を説明し、分割支払いを申し出て、以後の飲酒は諦めるべきでしょう。
【弁護士プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2019年2月15・22日号