昭和、平成の中頃まではどこの家にもあった“いちごスプーン”。それが「もう売っていないらしいよ」という噂を聞いて、台所用品の問屋街、東京・浅草橋のかっぱ橋道具街へ行ってみれば、案の定…。ところが、意外な使い道で復活を遂げていると聞いてまたビックリ! 体当たり取材で知られる「女性セブン」の名物還暦ライター“オバ記者”こと野原広子さんがリポートする。
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「いちごスプーンって、絶滅の危機らしいよ」
私が郷里の茨城から持ち帰ったばかりのいちごをものすごい勢いで食べながら、友人・Yちゃん(49才)が言う。
「あんなもの、なくなってもいいんじゃない?」と私。
正直、私が子供の頃、いちごはゴリゴリした果物で、ちっとも美味しいと思わなかった。それは「ダナー種」という品種で、小粒で固く、酸味・えぐみが強かったことをよく覚えている。だから、いちごには、底が平らないちごスプーンがつきもので、底でいちごをつぶして、牛乳や練乳をかけて、酸味・えぐみをやわらげないと美味しくなかったのよ。
調べてみたら、その当時、いちごスプーンの主要生産地の新潟県燕市では、年間30万本も作っていたんだって。
そんな私が、あるいちごを食べて「美味しいっ!」と思わず叫んだのは、忘れもしない15年ほど前。茨城でいちごの水耕栽培をしているNさんが「新しい品種だよ。何もつけずに食べてみて」と渡してくれたいちごを口に入れたときのことだ。「これは1996年に栃木県の農業試験場で交配してできた品種で、甘くてジューシー、やわらかいのが特徴なの」とNさんが言うとおり、それまでのイメージを覆す食感だった。それが「とちおとめ」だった。