思えば、いちごスプーンの需要が減ったのは、その頃からだったんだと思う。やわらかくて甘く、そのまま食べて充分美味しい新種の登場が、いちごスプーンを不要にしたんだと思う。
それからさらに20年。いちごスプーンは本当に消え失せてしまったのか。寒さが薄らいだある日、かっぱ橋道具街まで真相を確かめに行ってきた──。
狙いをつけて、スプーンやフォークを置いてある店を5軒、6軒と訪ねても、いやはや、ものの見事に空振り。老舗店舗では年配の店主が「前は置いていたんだけどねぇ…」と首を振るし、輸入品を扱うハイカラな感じの店に至っては、30代前半の女性店員が「そういうのは扱っていませんし、私自身、使ったことがありません」ときた。
ようやく見つけたのは、かっぱ橋道具街の入り口の大型店、ニイミ洋食器店。スプーン売り場の端っこに、あの形が立っていたのよ。しかも値段は税込みで135円。
「先割れもあるよ」
そう言ってもう1本持ってきてくれたのは、同店営業部の塚田伸介さん。
「うちも前はほとんど売れなかったよ」と言いつつ、意外なことを教えてくれた。
「2年くらい前からかな。介護施設の職員さんが『煮物とかをつぶして食べるのにちょうどいい』って買ってって、その頃からまた売れ出したの。あと離乳食を作るのにいいって話も聞いたなぁ。お年寄りも赤ちゃんも、食べる直前にスプーンでつぶした方が風味が残って、食欲が増すんだって」
ちなみに介護食用には、突き刺すこともできる先割れを、離乳食用には先の丸い方を買っていくのだそう。
ふむ。底をつきそうになったところから、もうひと勝負ね。しかも、介護というジャンルで新たな存在感を示していたとは──なんだか、ホッとしたような嬉しいような気持ちになった。
いちごスプーンって、中高年の星。縁起物かも♪
※女性セブン2019年2月28日号