『ねこじゃすり』は、撫でられた猫がうっとりとろけてしまうような猫専用ブラシだ。ブラシといっても毛やノミを取る役割があるわけではない。ただ、“猫が気持ちよくなるだけ”の商品がなぜヒットしたのか? それは、ある愛猫家ならではの心を捉えたからだった──。
『ねこじゃすり』を開発したワタオカは、やすりシェア95%を誇る広島県呉市仁方で126年続くやすりメーカーだ。2012年頃、代表の綿岡美幸さんは、野菜の皮をむくためのやすり商品の開発に取り組んでいたが、なかなか思うようにいかず、頭を抱えていた。
しばらくは開発を諦め、ほかの商品の販売に注力していたものの、2015年のある日、持ち帰った野菜用やすりの試作品で愛猫のグーガを撫でてみると、なんとも気持ちよさそうないい反応が返ってきた。「猫の舌の感触に似ているから、気持ちいいのかもしれない」と思いついた綿岡さんは、野菜用のやすりではなく、ペット用のやすりの開発をスタートした。
綿岡さんが初めにやったのは、飼い猫だけでなく、他の猫の反応を見ること。同社で活動を行っている保護猫の反応も参考にした。次に、猫だけではなく、犬にまで対象を広げてアンケート・モニター調査を実施。犬の反応は芳しくないが、猫については概ね気持ちよさそうにしてくれることがわかった。