まず重要なのは、親が家族の誰を後見人(家族信託なら受託者)に選ぶかだ。親の判断に任せるのではなく、「近くに住んで親の面倒を見ている子供が後見人になったほうが便利」といった助言をしてもいい。
後見人が決まったら契約書を作成する。弁護士の遠藤英嗣氏はこう語る。
「任意後見の場合は、公証役場に行けば手引きをしてくれ、簡単に契約書を作成できます。家族信託の契約書は専門知識や複雑な手続きが必要なため、必ず弁護士など専門家に作成を依頼すること」
契約書の準備ができたら親子一緒に再び公証役場を訪れて契約書に印鑑を捺して完了だ。家族信託は専門家に依頼した契約書を公証役場に持っていき、公正証書にする。
この時、「認知症になった親の財産を子供が奪おうとしてないか」という観点からのチェックがある。
「任意後見の契約は、親に判断能力があることが前提なので、公証人は親に名前や住所、生年月日などを尋ねます。答えに窮すると、親の認知能力に問題があると判断されて、公正証書が作成されないことがあります。家族信託の場合は、『何のために信託するか』と必ず聞かれるので、具体的に答える必要がある」(同前)
公証人の質問に備えて、「高齢で管理できないから息子に管理してほしい」など、家族信託の目的を親がしっかりと述べられるように、親子で練習しておくと手続きがスムーズに進む。
任意後見は公正証書の作成後、親の認知症が進んだら、必要書類とともに家庭裁判所に後見開始申立てをする。家族信託は、公正証書の作成後、不動産の名義変更や、親の財産を管理するための口座開設などを行なう。
※週刊ポスト2019年3月1日号