いくつもの医療保険に入り、万が一の疾病リスクに備えようとする人は多い。医療保険の契約件数は今や3677万件にのぼり、生命保険文化センターによると、医療保険に加入する世帯は8割を超え、がん保険やがん特約の加入率も6割を超える。もしもの時に、公的医療保険制度だけでは「まかなえない」と考える人も半数以上と多く、医療保険・がん保険に加入する人は年々増えるばかりだ。
医療保険への加入者はなぜこんなに増えているのか。保険に詳しいファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんが解説する。
「保険は、かつては死亡保険(生命保険)が主流で、病気やけがへの保障は、死亡保障を補う“特約”に過ぎなかった。しかし、寿命が年々延びているので、『生きている間のリスク』に備えた方がいいという需要が掘り起こされ、『死亡保障』よりも『生存保障』を求めるニーズが高まったのです」
単身者の増加や少子高齢化で死亡保険が売れなくなったことで、保険会社は販売戦略を転換。医療保険を主力商品として大々的に宣伝するようになった。そうして加入者のニーズを追求した結果、「入院日数分の給付金+手術給付金」が支払われる、今では定型ともいえる医療保険が主流になった。
ところが、そうした医療保険は、実は欧米ではあまり見られない、日本独特の商品でもある。『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』など、保険に関する多数の著書がある後田亨さんが話す。
「テレビCMなどの影響でしょうか、民間の保険に入っていないと、いざという時に何の保障もないと認識している人がいます。しかし、それは大きな誤解です。そもそも日本人は、世界的にも医療費の国民負担が軽く、手厚い社会保障に守られていることを知ってほしい。
原則、全国民が加入する健康保険は、医療費の自己負担は3割(75才以上の後期高齢者は1割)で済み、『高額療養費制度』という優れた制度もあります。その保障内容を知れば、民間の保険は必須とは考えにくいはずです」