夫が定年後に再雇用で働き、給料は大きく下がった。それでも年下の妻が専業主婦を続けるケースでは、夫の年金受給が始まる65歳までの“無年金の5年間”を乗り切ることが家計の大問題になる。
そのとき、貯金や退職金を取り崩すくらいなら、妻が60歳になった時点で妻の年金を繰り上げ受給し、家計を補填するという選択肢がある。
専業主婦で基礎年金だけであれば妻の年金は多くない。35年加入としても年額約69万円だ。60歳から繰り上げ受給すれば3割カットの約48万円に減額されるものの、月に4万円の“定期収入”を確保できれば生活を極端に切り詰めなくても済むかもしれない。
妻が年下の場合は、妻の年金を繰り上げても、夫が65歳になって年金受給が始まれば夫の年金に「加給年金」(最高38万9800円)が上乗せされる。妻が65歳になれば「振替加算」に切り替わる。
年金の繰り上げ受給には「損益分岐点」がある。たとえば、60歳から年金を受給した場合、「76歳8か月」より長生きすると、65歳受給開始よりもらえる年金総額は少なくなる。日本人男性の平均寿命は約81歳だから、計算上は繰り上げは損をする可能性が高い。「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。
「だからといって、体の自由が利かなくなってから多くの年金をもらっても使えない。60代から収入に不安があり、いざというときに売れるような資産がなければ、割り切って夫婦で繰り上げを選択し、生涯受給額で損することを承知で60代でできるだけ多くの年金を受け取ってもいい」