「遺産がたくさんあるから、相続で揉める」――そう考えているとしたら、大きな誤りだ。司法統計年報(平成29年度)によると、相続人同士の話し合いがまとまらず、遺産分割調停・審判となった「相続争い」の遺産額は、1000万円以下が32%、ほぼ相続税がかからない5000万円以下まで含めると75%に達する。
「相続は、遺産が少ないほど揉めるんです」と指摘するのは、円満相続税理士法人代表で税理士の橘慶太氏だ。
「今はちょうど、親子の間で相続を巡る考え方の違いが大きくなっている時代です。70歳を超える団塊の親世代には家督相続という価値観がまだ残っており、長男など“家を継ぐ子”に多くの遺産を渡したい意志がある。
一方、子供世代には『遺産は法に基づいて均等に分けるもの』という平等志向があります。だからこそ、どんな家庭でも親が生きているうちに話し合いと対策が欠かせないのですが、遺産が少ない一家ほど『ウチは大丈夫だよ』と高を括って対策を怠り、いざ親が亡くなると思わぬトラブルが生じて、『こんなはずじゃなかった』となるケースが多いのです」
遺産が少ないほど細かい損得勘定が先走り、残された家族同士で感情的な対立が深まるケースも目立つ。
相続で揉めるケースが多いのが、「親の資産は持ち家のみ、現預金はほとんどない」というパターンだ。たとえば、母に先立たれていた父が、評価額1500万円の自宅のみを残して亡くなり、息子3人が法定相続人の場合。