図の「揉めるケース」のように、父の死後に長男が「親父から『自宅はお前に継いでほしい』といわれていた」などと主張し、弟たちが遺産の“独り占め”に反発する展開になると、分割協議はたちまち暗礁に乗り上げる。
仮に、父の遺産にそれなりの額の現預金があれば、「家は長男に、現預金は次男、三男に」といった分け方が可能だが、自宅だけだとそうはいかないのだ。
次男、三男は「家なんてさっさと売り払って、そのお金を三等分すべきだ」と言い出すなど収拾がつかなくなる。
「法定相続分に従うと、評価額1500万円の遺産を3人の息子が500万円ずつ分けることになります。
法的な落としどころとしては、長男が自宅を継ぐ代わりに自腹を切って、弟2人に500万円ずつ代償金を支払う方法がありますが、1000万円を捻出するのは簡単ではない。自宅の所有権を兄弟3人で共有する選択肢はあるものの、住んでいる長男が自由に改修できなくなるなど、デメリットが大きい」(橘氏)
こうしたケースでは結局、長男が何とかやりくりして弟たちに現金を払い、事態をまとめるパターンが多いという。
遺産総額1500万円なら、基礎控除(4800万円、法定相続人3人の場合)の範囲内なので、相続税はゼロ。弟たちへの支払いで多額の出費を強いられた長男には、「相続にお金はかからないと思っていたのに……」という恨めしい思いが残り、弟たちとの関係は後年に至るまで悪化しかねない──。
このようなトラブルを回避するには、「一にも二にも、父親の生前に遺言書を書いておいてもらうことが大切」と橘氏は指摘する。
「父親が『自宅は長男に遺す』との遺言書を残しておけば、どんなに不公平な配分でも法的な拘束力が生まれます。生前に父親が息子たちに対して均等配分しない理由を説明し、全員が納得した状態にしておけるとなおよいでしょう」