きょうだい間の相続トラブルを防ぐには、親が遺言書をしっかり準備するのが基本だが、逆に遺言書によって兄弟に軋轢が生じることもある。
都内在住のA氏は、3人兄弟の次男。父親が亡くなった後、最寄りの公証役場に保管されていた遺言を読んだA氏は衝撃を受けた。そこには、「預貯金と不動産はすべて長男に渡す」と書かれていたからだ。
「長男と秘かに相続の話をしていたのか」――という思いを抱けば、後々まで関係にヒビが入るのは当然だ。
こうしたケースでは、さらに「遺留分」を巡って、問題が深刻になる。A氏のようなケースでも、相続人は「法定相続分の2分の1の遺産」を受け取る権利が認められている。これが「遺留分」という制度だ。
遺産に不動産が含まれていると、その評価額がいくらになるかという問題が出てくる。A氏のケースでは、遺産をもらえなかった弟2人が依頼した不動産鑑定士による評価が「4000万円」だったのに対し、長男は「3200万円」と一歩も譲らなかった。何しろ一方は高く評価してもらえば取り分が多くなるし、もう片方は評価が低ければ渡す金額が少なくて済む。
こうした食い違いが生じやすいのだ。円満相続税理士法人代表で税理士の橘慶太氏が指摘する。
「相続税の計算に使う不動産評価額は実勢価格の8割程度に設定されますが、遺留分は相続が発生した時の『時価』を基準にすると決められています。にもかかわらず、遺留分を少なくしたいA氏の兄のような立場の側が前者の評価額で押し通そうとするケースがよくある」