今から7年前、母・ユリコさんが60歳の時に「若年性認知症」と診断された芸人・ハナさん(40歳・仮名)。日常生活を送るなかで、言動がいつもと違うという周囲の“気づき”が認知症の早期発見につながるというが、「若年性」の場合、本人も周囲もまさか認知症とは思わないのが実情だ。
シリーズ「母が若年性認知症に…」第4回。今回は、ハナさんが若年性認知症と診断される前に出ていた「物忘れ」の症状について。
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認知症になると、ミスが発覚したときに「取り繕う」ようになるという。聞かれたことに答えられない場合は、ごまかすようになる。また作り話をしたり、つじつまを合わせようとしたりするのも、認知症の症状だ。年相応のもの忘れであれば何かきっかけやヒントがあれば思い出せるのに対し、認知症では何度も「夕食まだ?」と聞くなど、行為そのものを忘れてしまう。
忘れ物が加速度的に増えていった
注意深いユリコさんは、それまで忘れ物とは無縁の生活だったのに、いつしか外出のたびに忘れ物をするようになった。最初は「お土産屋さんで買ったキーホルダー」といった小さなものだったが、徐々に「化粧ポーチ」「カーディガン」など、大きいもの、目立つものも外出先に忘れるようになっていった。
ハナさんがユリコさんとデパートで買い物をしていた時のことだ。ユリコさんが「傘をトイレに忘れた」と言い出したので、ハナさんが「どこのトイレ?」と聞いたら、ユリコさんは取り乱したように「違うの! わたし、そんなつもりは……」と自分の擁護を始めた。ユリコさんは何も悪いことをしていないし、誰もユリコさんを責めていないのに。結局ユリコさんはどのトイレか思い出せないままで、傘は見つからなかった。