親の遺産を相続するにあたり、同居、別居に限らず、親の介護を兄弟姉妹のうち1人だけで担っていたパターンは注意が必要だ。介護は心身とも激しく消耗するのに、「その負担が相続に反映されていない」との不満を招きがちだからだ。円満相続税理士法人代表で税理士の橘慶太氏が指摘する。
「民法上は『寄与』という概念がある。例えば長男が次男より親の介護をしっかりしていれば、相続額を多めに配分するという考え方です。しかし実際の遺産分割調停では、“少なくとも1年以上(介護をしていた)”など要件が厳しく、寄与は認められにくい」
神奈川県在住のAさんは定年後、寝たきりの母親の介護のために再雇用を諦め、週4回コンビニでアルバイトを始めた。だが、介護生活は想像以上に負担が重く、妻の手を借りても追いつかない。結局、アルバイトを辞めてわずかな年金で暮らすことになり、母が亡くなるまでの2年間、貯金を取り崩す生活を強いられた。
母親の死後、Aさんは次男、三男との遺産分割協議で寄与分を主張したが、2人の弟は「長男が親の介護をするのは当然。相続額を割り増すのはおかしい」と聞く耳を持たない。結局、家裁の調停でも「介護の実態を証明できない」と、寄与分は認められなかった。