相続にあたって“親の借金がないか”のチェックが重要だという指摘はよくあるが、“子の借金”が問題を生む場合もある。
50代会社員のA氏は同居していた父の死後、自分は実家を相続して、金融資産は弟に譲る方針で遺産分割協議を進めていた。弟にも異存はなかったので悠長に構えていたある日、いきなり債権回収業者から電話があった。
「弟さんの返済が滞っているので、親御さんの不動産を差し押さえました」
すぐ弟に連絡すると「実は……」とカードローンなどで多重債務に陥っていることを打ち明けられた。慌てて登記を確認すると、父の遺した不動産の半分が仮差し押さえになっていた。税理士で司法書士の渡邊浩滋氏が指摘する。
「相続人に借金がある場合、債権者は法定相続財産を差し押さえられます。A氏のケースは、弟の法定相続分にあたる持ち分の2分の1を、債権者が差し押さえた上で登記した状況です。その後、遺産分割協議で弟が不動産を相続しない形にしても、債権者による差し押さえ登記が優先されます」
A氏のようなケースでは、差し押さえられた不動産が裁判所によって競売にかけられ、所有権が第三者に移ることもある。そうなると、事態はより深刻だ。
「こうした不動産は一部の業者にとっては格好の“商売のタネ”になります。競り落として所有権の半分を所有したら、A氏のようなその家に住んでいる人に家賃を要求するケースがよくある」(渡邊氏)