Eさんのビルからすぐ近くの場所に住んでいるNさんも、落書き被害には苦労している。
「私の家は角地の一軒家ですが、30年間で4回、塀やシャッターに落書きされています。初めてやられた時は警察に届け出ましたが、警察は話を聞いて、写真を撮るだけ。犯人が捕まったという話も聞きませんし、原状回復費は当然自腹です」(Nさん)
Eさんは、こういった状況に手をこまねいて見ているわけではない。防犯カメラを設置し、落書きが犯罪であることを示す警告文を出し、街の美観を保つために近隣の店と協力して、街のゴミ拾いをするクリーンアップキャンペーンも行っている。それでも落書きがなくならないのは、なぜか。Eさんは次のように分析している。
「近隣の美容院や洋服店の中には、デザインとして店の外観を落書き風にしていたり、シャッターに落書き風アートを書いている店が多く存在するため、『落書きをしても許される街』という誤ったイメージが醸成されています。実際、落書きで逮捕された外国人の少年が、『落書きしてもいいと聞いた』と答える事件がありました。
また近年では、“落書き風アート”がネットでインスタ映えポイントとして紹介されていて、ファッション雑誌の撮影などで使われているシーンもよく見かけます。落書きは犯罪なのに、落書きがなかば名所化し、街の個性として捉えるような風潮があることに腹を立てていたところに、小池知事がバンクシーを認めるかのような振る舞いをしたので、とても腹が立ちました。ということは、私のビルにバンクシーが落書きするまで我慢しろということですか? 小池都知事は、『バンクシーだろうが何だろうが、落書きは絶対ダメです』と言わなきゃいけなかったんですよ」
ちなみにEさんは1度だけ、近所で落書きをしている現場を目撃したことがあるものの、怖くて注意はできなかったそう。小池都知事は、「落書きはNG。でもバンクシーならOK」というダブルスタンダードをきちんと納得させるロジックを用意する必要があるだろう。