昨年、父親を亡くした50代のA氏が疲れた表情で振り返る。
「親の生前に本籍地の変更履歴を確認していなかったので、亡くなった後、まずは最新の戸籍謄本に記載されているひとつ前の本籍地を確認し、その後、ひとつひとつ遡ってすべての戸籍謄本を取得しました。申請書と身分証明書と定額小為替と切手付きの返信用封筒を入れた封筒を各地の役所に送るのが本当に面倒で……」
こうした手間と出費を省くには、親の死期を悟った時点で準備を開始しておきたい。これまでの本籍地を親から聞き出しておけば、「ひとつずつ遡る」手間は省ける。
親の戸籍は推定相続人なら取得できる。本籍地変更が多かった場合、先に進めておく手もある(親が亡くなった後の戸籍だけ、後で取得する)。また、手間がかかる以上プロに任せるのも選択肢だ。
「戸籍解読のスペシャリストである司法書士に依頼すると効果的です。本籍地の件数にもよりますが、費用は2万円から最大10万円程度です」(橘氏)
“時間との勝負”である以上、複雑で手間のかかる手続きは、必要に応じて専門家に依頼してもよいだろう。別掲では、どのタイミングでどんな専門家に相談するのがよいかをまとめた。
預金引き出し「記録を残すことを忘れずに」
親が亡くなると、原則として故人名義の口座が「凍結」されて、預金を引き出すには相続人全員で合意した遺産分割協議書と全員の印鑑証明など、膨大な書類が必要となる。
今年7月からは、「預貯金の仮払い制度」が創設され、遺産分割協議前でも相続人であることを証明する書類があれば、金融機関ごとに150万円まで引き出せるようになるが、前出・橘氏は「生前の引き出し」が望ましいとする。