統計不正問題をめぐって国会が紛糾している。今後の展開次第ではさらに大きな疑獄へと発展する可能性もあるだろう。そうした中で安倍晋三首相はどんな手を打ってくるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が読み解く。
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厚生労働省の「毎月勤労統計」と「賃金構造基本統計」の不正調査問題をめぐって国会が紛糾している。
毎月勤労統計は、経済指標の一つとして賃金や労働状況、雇用の変動を明らかにすることが目的で、従業員500人以上の事業所に対する全数調査が義務付けられているが、2004年から東京都分に関して約3分の1の抽出調査にしていたことが明らかになった。
また、賃金構造基本統計は、国内の主要産業に従事している労働者の賃金の実態を雇用形態や職種別等に明らかにするもので、本来、調査員が事業所を訪問して調査すべきところを、10年以上も前から勝手に郵送調査に変えていた。
この二つの不正調査には、厚生労働省の組織的な関与や隠蔽をうかがわせる不審点がいくつも浮上している。しかし、毎月勤労統計については同省特別監察委員会が「嘘をついたが隠す意図までは認められない」として組織的隠蔽を否定し、賃金構造基本統計についても総務省行政評価局が「現場は不正を認識していたが幹部は把握していなかった」「隠蔽は認められなかった」などとする検証報告書を発表したのである。
これに対して野党が激しく反発し、今後の展開次第では「統計不正問題」から「統計不正疑獄」に発展する可能性もあるだろう。そうなれば、安倍晋三首相にとっては「陸上自衛隊イラク日報問題」や「森友・加計学園問題」よりもはるかに大きな打撃となる。なぜなら、安倍政権はアベノミクスで景気が拡大しているということが唯一の求心力だったのに、その根底となる「統計」の信頼性が崩れてしまうからだ。
2月の衆議院予算委員会で統計不正問題をめぐり、立憲民主党の長妻昭代表代行が麻生太郎副総理兼財務相の著書『麻生太郎の原点 祖父・吉田茂の流儀』(徳間文庫)を引き合いに出して質問したのはグッドジョブだった。