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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

安倍首相が参院選惨敗を回避すべく打ってくる手は?

 長妻氏は戦後のGHQ(連合国軍総司令部)による占領時代にダグラス・マッカーサー最高司令官から「日本の統計はいい加減で困る」と苦言を呈された際、当時の吉田首相が「当然でしょう。もし日本の統計が正確だったら、むちゃな戦争などいたしません。また統計どおりだったら、日本の勝ち戦だったはずです」と切り返したという同書の中のエピソードを紹介し、「戦前、戦中は統計がいい加減で、権力者の意のままに使われた。非常に示唆に富む話だ」と指摘したのである。これは間違った政策を強行する政府は統計で嘘をつく、という教訓にほかならない。

 実際、政府は2012年12月に始まった現在の景気拡大局面が2019年1月で74か月に達し、「いざなみ景気」の73か月を超えて「戦後最長になったとみられる」としたが、この主張は極めて怪しくなった。中国経済急減速の影響で、内閣府が景気動向指数の1月の基調判断を従来の「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げ、すでに景気が後退局面に入った可能性が高くなったのである。

 そもそも今回の景気拡大は、成長率1%台の地を這うような“ミミズ景気”だ。実質所得が上がっていない国民に景気が良くなっているという実感は全くない。もし「戦後最長の景気拡大局面」も政府の統計不正調査=統計操作による嘘偽りだったとなれば、まさにトランプ米大統領張りの「フェイク」であり、安倍内閣の支持率は急落して今夏の参院選で惨敗するだろう。

 では、これから安倍首相はどうするのか? 10月に予定されている10%への消費税増税を延期し、それについて「国民の信を問う」という詭弁で衆参ダブル選挙に打って出るのではないかと私は考えている。安倍首相は消費税を「リーマン・ショック級の出来事がない限り引き上げる」と繰り返してきたので、今の景気の落ち込みを「リーマン・ショック級の出来事」と強弁すれば、増税延期の理由になるわけだ。

 その安倍流フェイクに国民は騙されて「増税が延期になるなら……」と、三たび安倍自民党を支持して野党は惨敗する可能性が高いだろう。すでに安倍首相は事あるごとに「民主党政権は悪夢だった」と印象付ける布石を打っているが、それに対して野党は有効な反論ができていないからだ。

※週刊ポスト2019年4月5日号

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