介護の負担はますます私たちに重くのしかかってくる。厚生労働省は介護の必要な度合が比較的低い「要介護1、2」の人が受けられる介護サービスを、原則自己負担にすることを検討し始めた。これが実現されてしまうと、掃除や洗濯、調理、買い物といった訪問介護サービスの費用全額を、すべて利用者が負担することになる。
そうなると、お金がなくて介護サービスを受け控える人が出てくる。その結果、介護の状態が悪化したり、誰にも知られずに亡くなるといったことが増えるかもしれない。また、3世代同居の家庭の住宅の新築・改修費には助成金を出すという、極めて不明確な判断基準で推し進める「3世代同居住宅補助制度」も、結局は“国ではなく家庭”での介護を推し進めるもの。つまり、家族の負担を増大させるのだ。
介護ジャーナリストでAll Aboutガイドの小山朝子さんが言う。
「これまでも、たびたびこうした改正はありました。財源確保の観点からも今後はますます、“軽度の人を切り捨てていく”という方針が進んでいくでしょう。また、現在の介護保険のサービスは利用者や家族のニーズと合致していないと感じる点も少なくありません。そもそも“走りながら考える”と見切り発車で始まった介護保険制度。その歪みが現れてきたと感じます」
安倍政権は「介護による離職者ゼロ」を提唱している。対策の一環として、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や特別養護老人ホーム(特養)といった高齢者施設の上乗せ・前倒し整備を決めたが、介護・医療ジャーナリストの長岡美代さんは「箱ものを増やすのは逆効果」と指摘する。
「すでにサ高住は全国に約20万戸が整備されています(2016年3月現在)。建設費への国庫補助で民間参入が相次いだためですが、一部にダブつきがみられるだけでなく、人手の確保もままならなくなっています。これ以上箱を増やしても、働く人がいなければ意味がありません。競争の激化で、経営を維持するために必要のない介護サービスを提供して介護費用を不当に稼ぐ例が増える恐れもあります。介護保険財政の悪化を招きかねません」(長岡さん)
※女性セブン2016年5月5日号